あの国民的メロディの正体は?キューピー3分クッキング曲の秘密
キューピー 3 分 クッキング 曲と聞いて、誰もが即座にあの軽快なウッドブロックと華やかなブラスのリズムを脳裏に浮かべることができるだろう。昼前のリビングに漂う香ばしい匂い、トントンと小気味よく響く包丁の音、そして画面の隅で愛らしくステップを踏むキャラクター。日本の食卓と昼の風景を60年以上にわたって彩り続ける料理番組の金字塔は、オープニングの数小節とともに私たちの日常へ深く溶け込んでいる。
だが、お茶の間でおなじみのキューピー 3 分 クッキング 曲が、実は100年以上も昔のドイツで生まれたクラシック音楽である事実を知る人は意外に少ない。なぜこの快活な行進曲がテーマソングに選ばれ、激動のテレビ放送業界において一度もその座を譲ることなく愛され続けているのか。そこには、食品製造業を代表するキユーピー株式会社の洗練された感性と、時代ごとに音色を磨き上げてきたクリエイターたちの熱意が存在する。
キユーピー3分クッキングのあの名曲の正体とは?原曲「おもちゃの兵隊の行進」の知られざる歴史と選定の真相
耳に残るあの特徴的な旋律の正式名称は『おもちゃの兵隊の行進(原題:Parade der Zinnsoldaten / 作品123)』。ピアノ小品や管弦楽のための小編成楽曲として1897年頃に世へ放たれた、正統派のクラシック音楽だ。
番組が産声を上げた1960年代初頭、制作陣は「誰でも親しみやすく、台所に立つのが楽しくなる軽快な音」を探し求めていた。重厚で厳格なシンフォニーではなく、おもちゃ箱をひっくり返したような無邪気さと行進曲ならではの前進感。それが料理の手際よさや日々のワクワク感と奇跡的に合致した。選定の決め手は、当時の視聴者がまだ耳慣れなかった西洋音楽のモダンな響きと、一度聴いたら忘れられないキャッチーさにあったと伝えられている。
悲劇の作曲家レオン・イェッセルが遺した不朽の軽快ポルカ
この世界的な名曲を生み出したのは、ドイツ出身の作曲家レオン・イェッセル(Léon Jessel)だ。彼は19世紀末から20世紀初頭にかけて数多くのオペレッタやサロン音楽を手がけ、ベルリンを中心に絶大な人気を博していた。
しかし、彼の人生の結末はあまりに過酷だった。ユダヤ系の出自であったレオン・イェッセルは、ナチス政権の台頭によって激しい弾圧を受けることになる。作品の上演を全面的に禁じられ、ゲシュタポに拘束された末、1942年にベルリンの病院で非業の死を遂げた。彼が紡いだ希望に満ちたメロディは、暗黒の時代を生き延び、海を越えた極東の島国で毎日の料理を応援するアンセムとして永遠の命を得たのである。
日本テレビ版とCBCテレビ版でアレンジが違う?東西二つの個性
長年の視聴者でも見落としがちなのが、放送局による音源の違いだ。『キユーピー3分クッキング』は現在、日本テレビ放送網(日テレ系)が制作するバージョンと、中京圏を拠点とするCBCテレビ(TBS系)が制作するバージョンの2系統が全国で並行して放送されている。
この2系統はセットや出演講師が異なるだけでなく、テーマ曲のアレンジにも明確な個性が反映されている。日テレ版は木管楽器やマリンバのコロコロとした温かみを活かしたポップなトーンが際立ち、対するCBC版はオーケストラのダイナミズムを感じさせるストリングス主体のきらびやかな構成が特徴的だ。どちらも原曲の持つ愛らしさを損なうことなく、時代ごとの最新スタジオ音響技術でリマスタリングや再録音が重ねられている。
食品製造業の巨頭・キユーピー株式会社が音で築いたブランドアイデンティティ
テレビ番組のテーマソングが半世紀以上も変わらない例は極めて珍しい。日本の食品製造業においてマヨネーズやドレッシングのパイオニアであるキユーピー株式会社は、この音楽を単なるBGMではなく、企業哲学を体現する「サウンドロゴ」として育て上げてきた。
余計な歌詞をつけず、純粋なインストゥルメンタルとして鳴らし続けること。この一貫した姿勢が、「手作り料理の楽しさ」「食卓の温もり」「変わらない安心感」というブランド価値を視聴者の無意識に刻み込んだ。移り変わりの激しいマーケティングの世界において、これほど長く成功を収め続けているオーディオブランディングの事例は他に類を見ない。
TVerやYouTubeへ拡大する料理番組の今と受け継がれるメロディ
ライフスタイルが多様化し、リアルタイムでテレビを見る習慣が変化した今、番組のあり方も新たな局面を迎えている。日テレ版・CBC版ともにTVerでの見逃し配信に完全対応し、公式YouTubeチャンネルでは短尺動画やアーカイブが連日多くのユーザーに視聴されている。
スマートフォンでレシピを検索し、タイパ(タイムパフォーマンス)を重視して倍速で動画を見る現代人。そうしたデジタル空間のタイムライン上でも、あの軽快なイントロが流れた瞬間に指が止まる。19世紀末のベルリンで生まれた小さな行進曲は、プラットフォームが変わってもなお、私たちの「今日、何作ろう?」という好奇心を弾むようなリズムで鼓舞し続けている。 (出典: キューピー 3 分 クッキング 曲(Yahoo!ニュース))