破綻から復活へ!近江兄弟社メンターム誕生秘話と最新戦略の全貌
近江 兄弟 社の歴史を紐解くとき、私たちが手にする小さなリップクリームの向こう側に、奇跡のようなドラマが広がっていることに気づかされる。滋賀県近江八幡市。琵琶湖東岸の静穏な町で生まれたその軟膏は、ただの乾燥対策グッズではない。1世紀以上にわたり、日本の家庭の救急箱とポケットを守り続けてきた緑のパッケージ。その歩みは、幾度もの倒産の危機、権利の喪失、そして劇的なブランド再誕の軌跡そのものだ。
激動の市場環境に直面しながらも、近江 兄弟 社は独自の哲学を貫き通してきた。単なる利益追求にとどまらず、社会奉仕と信仰を事業の両輪に据えた特異な経営スタイルは、ESGやサステナビリティが叫ばれる以前からこの地に根づいていたのだ。いま、ドラッグストアの棚を席巻するあの軟膏は、なぜ日本人の肌と心にここまで深く浸透したのか。その深層へと迫る。
メンターム誕生の真相:破綻の危機から生まれた緑の救世主
あの親しみ深い「メンターム」という名称は、実は背水の陣から生まれた苦肉の策であり、起死回生のシンボルだった。もともと近江八幡で製造・販売されていたのは、アメリカ発祥の「メンソレータム」である。しかし1974年、オイルショックと放漫経営のあおりを受け、同社は会社更生法の適用を申請。事実上の倒産に追い込まれる。
製造権と販売権、そして誰もが知る「リトルナース」のトレードマークは手放さざるを得なかった。工場の機械は止まり、職を失いかけた社員たちが残されたのは、培ってきた製造技術と原料の調達ルートだけ。彼らは諦めなかった。メンソレータムの「ソレ」を抜き、創業の精神を込めて「メンターム」と改称。トレードマークには、太陽神アポロンをモチーフにした少年の横顔を採用した。商標を失っても、製品の本質と顧客への誠実さを失わなければ再起できる。この不屈のドラマは、戦後日本の産業史に刻まれるべき鮮烈な転換点だった。
ウィリアム・メレル・ヴォーリズと一柳満喜子が遺した「信仰と商徳」
会社の礎を築いたのは、アメリカ人建築家でありキリスト教伝道者でもあったウィリアム・メレル・ヴォーリズだ。1905年、英語教師として来日した彼は、近江八幡の風土と人々に魅せられ、この地に骨を埋める覚悟を決めた。彼が手がけた洋風建築は今なお日本各地に現存し、温もりのある空間設計で愛され続けている。
そのヴォーリズの生涯の伴侶であり、精神的な支柱となったのが一柳満喜子である。華族の令嬢でありながら、異国の宣教師と結ばれ、幼児教育や女子教育に生涯を捧げた彼女の波乱万丈な生き方は、NHKの『連続テレビ小説 あさが来た』でも登場人物のモチーフとして描かれ、大きな話題を呼んだ。現在も『NHKオンデマンド』などで名作として視聴され続けるあの物語の背景には、近江の地で愛と奉仕を実践した夫婦の確かな息吹がある。彼らが掲げた「事業は神の栄光を現すための手段」という理念は、営利企業でありながら利益を社会へ還元する独自の組織風土を決定づけた。
学校法人ヴォーリズ学園と共鳴するソーシャルビジネスの源流
近江の町を歩けば、ヴォーリズの影響が企業の枠を遥かに超えて広がっていることがわかる。その中核を成すのが、一柳満喜子の幼児教育から発展した学校法人ヴォーリズ学園だ。幼稚園から高校までの一貫教育を通じて、「地に平和を」の精神を次世代に伝承している。
株式会社近江兄弟社が生み出す利益は、配当や寄付を通じて学園の教育事業や地域の医療福祉活動へと循環してきた。いま欧米を中心に語られるB Corp認証やパーパス経営を、彼らは大正・昭和の初期から当たり前のように実践していたわけだ。製品を1個買う行為が、そのまま地域の教育や福祉を支える仕組み。この揺るぎないコミュニティとの共生関係こそが、度重なる経営難でも地域住民や熱烈なファンに見捨てられなかった最大の防波堤である。
ロート製薬との知られざる交差点:メンソレータム商標を巡るドラマ
近江兄弟社が手放したメンソレータムの日本国内における商標権と販売権を引き継いだのは、大阪に拠点を置くロート製薬株式会社だった。1975年の権利取得後、ロート製薬は卓越したマーケティング力と研究開発によってメンソレータムをメガブランドへとスケールアップさせ、1988年には米国本社そのものを買収するに至る。
一方、再出発した近江兄弟社はメンタームを愚直に作り続け、適正価格と確かな品質で独自のシェアを奪還していった。『日本経済新聞 電子版』などの経済メディアでも、この両社のライバル関係と棲み分けは「ブランドの数奇な運命」として度々特集されている。赤と緑、ナースとアポロン。ドラッグストアの同一棚に並ぶ2つの軟膏には、日本のスキンケア・ヘルスケア市場が辿った激動の再編史が凝縮されているのだ。
医薬品・医薬部外品製造業の枠を超える2026年最新スキンケア戦略
そして現在、2026年の市場において近江兄弟社は従来の医薬品・医薬部外品製造業という枠組みを大きく脱皮しつつある。主力であるリップスティックや薬用軟膏の安定した基盤の上に、敏感肌向けの日焼け止めシリーズ「ベルディオ」や、高機能なエイジングケア・ボディケアラインを積極展開。アジアを中心とした海外輸出も加速させている。
注目すべきは、クリーンビューティーと低刺激処方への徹底的なこだわりだ。原材料の選定から製造工程における環境負荷の低減まで、創業者ヴォーリズのエシカルな思想を最新の皮膚科学で再解釈。単なるレトロブランドとしてのノスタルジーに甘んじることなく、Z世代やミレニアル世代の肌悩みに寄り添う機能性コスメとしてのポジションを確立している。伝統を守りながら自らを更新し続けるアジャイルな商品開発力こそ、彼らが激しい市場競争を生き残る原動力に他ならない。
企業ドキュメンタリーが映し出す老舗の矜持と未来の針路
近江兄弟社の波乱の歩みは、近年のメディア空間において単なるビジネス成功譚を超えた、人間味あふれる企業ドキュメンタリーの題材として再評価の機運が高まっている。効率化と短期的な利益の最大化ばかりがもてはやされる現代において、人を育て、地域を愛し、良質な製品を適正な対価で届けるという彼らの愚直さは、かえって鮮烈な異彩を放つ。
近江八幡の赤レンガの街並みから生まれた小さな軟膏は、100年の時を超えて今も私たちの荒れた唇や肌を癒やし続ける。破綻を乗り越えた職人たちの誇りと、海を渡ってきた宣教師の祈り。その両方が溶け込んだ小さな容器を開けるとき、私たちは資本主義が本来持っていたはずの「誠実さ」という温かい手触りを思い出す。 (出典: 近江 兄弟 社(Yahoo!ニュース))