世界が愛すウサギ島で何が?激減の危機と現地取材で見えた新常識
うさぎ の 島として世界中の旅行者を惹きつけてやまない瀬戸内海の小島が、いま静かな転換期を迎えている。広島県竹原市の忠海港から船で約15分。瀬戸内海国立公園の穏やかな海路を抜けると、周囲わずか4.3キロの大久野島が見えてくる。かつて船を降りた瞬間に足元へ押し寄せていた愛くるしい毛玉たちの群れは、ここ数年でその様相を劇的に変えた。SNSの熱狂が生んだ光と影が、島の土を踏む者の肌にダイレクトに伝わってくる。
青い海と緑の芝生に囲まれたこの地は、国内外の旅行客からうさぎ の 島の愛称で親しまれる一方、単なる癒やしスポットでは片付けられない複雑な歴史と生態系の課題を抱えている。島内で何が起き、野生動物と人間はどう距離を取り直すべきなのか。現地取材で見えてきたリアルな姿と、いま知っておくべき旅の作法を紐解く。
激減したウサギの謎:過剰なブームが生んだ生態系の歪み
一時期は1,000羽近くまで膨れ上がったとされる大久野島のウサギ。しかし現在、その数は推定で300〜400羽前後にまで落ち着いている。激減と聞くと伝染病や虐待を想起するかもしれないが、実態はより構造的だ。コロナ禍に伴う観光客の激減による給餌量の急減、そして過密飼育状態にあった島内での自然淘汰が重なった結果である。
野生化したアナウサギは本来、草や木の皮を食べて暮らす。だが、観光客が持ち込む大量の野菜やペレットに依存したことで、異常な繁殖と縄張り争い、皮膚病の蔓延が引き起こされていた。テレビ番組『ダーウィンが来た!』などのネイチャードキュメンタリーでも取り上げられたように、野生動物への過剰な介入は脆い島嶼生態系を容易に崩壊させる。現在の個体数減少は悲劇であると同時に、島本来の収容力へと戻ろうとする自浄作用の側面も持ち合わせているのだ。
現地取材で判明した新ルールと絶対に避けるべき禁止事項
島を管理する環境省や現地関係者は、ウサギの健全な生息環境を取り戻すために明確なガイドラインを打ち出している。かつてのような無秩序なふれあいはもはや通用しない。島を訪れる者が絶対に守るべき鉄則を整理した。
第一に、道路や歩道の中央、建物の出入口付近での給餌は完全禁止だ。島内を走る送迎バスや自転車との接触事故が後を絶たないためである。ウサギを見かけても必ず道の端の安全な草地に誘導しなければならない。
第二に、食べ残したエサの放置は厳禁である。腐敗した野菜はカラスやイノシシを呼び寄せ、結果としてウサギの子どもを危険に晒す。与えるなら食べ切れる量だけ、そして余ったエサやゴミは必ず持ち帰るのが鉄則だ。さらに、水分過多で下痢を引き起こしやすいネギ類やパン、スナック菓子を与える行為は命を奪う危険がある。
抱き上げたり追いかけ回したりする行為も厳禁だ。骨が非常に脆いウサギは、落下による骨折がそのまま死に直結する。触れ合いたい欲求を抑え、適度な距離から見守る姿勢が求められている。
毒ガス工場から平和の象徴へ:地図から消された過去の陰影
ウサギたちの愛らしさに目を奪われがちだが、大久野島には決して忘れてはならないもう一つの顔がある。戦時中、旧日本軍が秘密裏に毒ガスを製造していた歴史だ。当時の軍事機密として、島そのものが陸地測量部の地図から完全に消し去られていた。
島内を歩けば、鬱蒼とした木々の間に巨大な発電所跡や毒ガス貯蔵庫の遺構が突如として姿を現す。その異様なコントラストに息をのむ。大久野島毒ガス資料館には、過酷な労働環境と兵器の非人道性を物語る貴重な資料が展示されており、訪れる者に平和の重みを静かに問いかける。
この重層的な記憶は、NHKのドキュメンタリー番組『アナザーストーリーズ 運命の分岐点』でも深く掘り下げられた。過去の放送をNHKオンデマンドなどで予習してから島を歩くと、ただの観光地ではない、歴史の証人としての島の輪郭が鮮明に浮かび上がってくるはずだ。
混雑回避の独自ルートと快適に巡る最新渡航ガイド
週末や連休の忠海港は、フェリーを待つ長蛇の列ができることも珍しくない。混雑を巧みに回避し、ストレスなく島時間を楽しむための渡航戦略を押さえておきたい。
最大のポイントは時間帯のコントロールだ。午前8時〜9時台の始発に近い便で島へ渡れば、混雑を避けられるだけでなく、朝一番の活発にお腹を空かせたウサギたちに出会える。日中になると彼らは日陰に隠れて眠ってしまうことが多い。
また、広島側の忠海港だけでなく、愛媛県の大三島(盛港)からフェリーでアクセスする裏ルートも有効だ。瀬戸内しまなみ海道のドライブと組み合わせることで、渋滞知らずの快適なアイランドホッピングが実現する。
島内の移動拠点となるのは「休暇村大久野島」だ。宿泊者以外も利用できるレストランや温泉、レンタサイクルが完備されており、無料送迎バスも運行している。重い手荷物を預けて身軽になり、電動アシスト自転車で島を一周するのが最も効率的な散策スタイルだ。
共生か観光か:エコツーリズムの最前線で見える島の未来
YouTubeをはじめとする動画プラットフォーム上では、今なおウサギに囲まれる非日常的な映像が数多く消費されている。しかし、そうした断片的なイメージだけを消費する時代は終わった。
地域が目指しているのは、単なる集客数の追求ではない。豊かな自然環境と負の歴史遺産、そして野生動物の命を包括的に学び、保護する質の高い「観光業・エコツーリズム」への脱皮だ。観光客一人ひとりが正しい知識と敬意を持って島に足を踏み入れることこそが、ウサギたちの未来を守る唯一の防波堤となる。
潮風に吹かれながら草を食むウサギの姿と、苔むしたコンクリートの廃墟。この島が持つ唯一無二の静寂を守り続けられるかどうかは、いま私たち旅人の手に委ねられている。 (出典: うさぎ の 島(Yahoo!ニュース))