映画人が群馬に通い詰める理由とは?異彩の洋館に潜む撮影秘話
ロイヤル チェスター 前橋の重厚な鉄門を押し開けると、上州名物のからっ風がふと止んだような錯覚に囚われる。視界を圧倒するのは、乾いた北関東の青空へ鋭く突き刺さる尖塔群だ。外壁を覆う砂岩の彫刻、飴色に鈍く光る木製扉、陰影の濃い回廊。パスポートを持たずに中世英国の古都へ迷い込んだかのような異世界が、突如として住宅地の一角に広がる。
奇妙な光景かもしれない。しかし、冠婚葬祭大手の株式会社メモリードが心血を注いで創り上げたロイヤル チェスター 前橋は、もはや単なる祝祭の場にとどまらない。いまや国内外の映画・映像制作業に携わるクリエイターたちが「どうしてもここで撮りたい」と執念を燃やす、国内屈指の巨大ロケ拠点として不動の地位を築いているのだ。
重厚なゴシック・リバイバル建築が放つ、抗いがたい画面の説得力
日本国内で洋風建築のロケーション撮影を行う際、美術スタッフが直面する最大の壁は「チープなセット感」との戦いだ。石膏ボードで作られたイミテーションや、現代日本のサッシ窓が映り込むだけで、観客の没入感は一瞬で瓦解する。
この施設が映像関係者を唸らせる所以は、妥協を排したゴシック・リバイバル建築への執着にある。館内を飾るアンティーク家具や装飾品の数々は、ヨーロッパ各地の教会や歴史的建造物から実際に買い付け、海を渡って運ばれた正真正銘の本物。尖頭アーチの柱列に落ちる光の諧調、高い天井に反響する足音の余韻まで、現代のスタジオでは再現不可能な重厚さが最初から空気中に満ちている。カメラのファインダーを通した瞬間、CG加工など不要なほどの映画的リアリティが立ち現れる仕掛けだ。
東映特撮の聖地からエンタメ大作までを呑み込む懐の深さ
映像関係者の間でこの館の名が知れ渡った契機として、東映株式会社が手掛ける特撮作品の存在は見逃せない。とりわけ日曜朝のアイコンである仮面ライダーシリーズにおいて、ここは悪の組織の豪奢なアジト、あるいは高貴な宿敵が潜む洋館として幾度となくスクリーンを彩ってきた。特撮ファンにとって、館内の赤絨毯敷きの大階段は記憶に深く刻まれた聖地そのものだ。
特撮の現場で鍛え上げられた柔軟な撮影受け入れ態勢は、やがて邦画メジャー大作へと波及していく。詐欺師たちの華麗な騙し合いを描いた『コンフィデンスマンJP』では、海外の高級ホテルや大富豪の邸宅という設定を完璧に演じきった。さらに、群馬と埼玉の意地が激突する奇想天外な大ヒット作『翔んで埼玉』では、GACKTや二階堂ふみが纏う絢爛豪華な衣装と、この館の過剰なまでの美意識が見事な化学反応を起こし、映画史に残る怪異で美しいビジュアルを成立させた。
【独自取材】Netflix大作の未公開ロケ地情報と関係者が明かした見学秘話
近年、この館に押し寄せているのが、NetflixやAmazon Prime Videoといったグローバル配信プラットフォーム発の超大作チームだ。海外渡航を伴う大規模ロケのコストが高騰するなか、国内で「本物の欧州」を撮れる稀少価値は天井知らずに跳ね上がっている。実際、非公表のまま撮影された某海外共同制作ドラマでは、館内奥深くに位置する地下控室や普段は閉ざされた裏階段が、要人脱出の緊迫したサスペンスシーンの舞台に選ばれた。
現地関係者は、当時の張り詰めた空気をこう振り返る。「美術スタッフの方々が最も感嘆されたのは、陽の差し込まない小部屋の壁の質感でした。歴史を帯びた建具の細部までカメラが極限まで寄れる。これは作り物のセットでは絶対に不可能です」。
聖地巡礼でこの地を訪れるファンにぜひ知ってほしい秘話がある。ステンドグラスが燦然と輝く大聖堂に足を踏み入れたら、一度後方のパイプオルガンを見上げてみてほしい。ある世界的配信作のクライマックス、主演俳優がリハーサル中に数分間だけ一人で佇み、その空間の霊気に圧倒されて台詞の解釈をその場で変更したという逸話が残る特別なアングルだ。こうした表に出ないエピソードの数々が、巡礼者の知的好奇心を強く刺激してやまない。
ブライダル産業の変容と、文化インフラへの昇華
少子化とナシ婚層の拡大により、全国のブライダル産業は厳しい事業環境に晒されている。莫大な維持費を要する巨大チャペルや婚礼施設が次々と解体や用途転換に追い込まれるなか、この施設が描く生存戦略は極めて先駆的だ。
平日は映画やドラマ、CM、ミュージックビデオの撮影スタジオとしてフル稼働させ、週末には本来の婚礼業務と聖地巡礼ツアーを共存させる。文化資産としての価値を磨き上げ、エンタメの力で建物を守り抜く。このハイブリッドな運営形態によって、建築物は単なるハレの日の消費物から、持続可能な地域文化のインフラへと進化を遂げた。
銀幕の幻想を現実に体験する贅沢な巡礼体験
スクリーンの中で見ていたあの壮大な世界へ、実際に自らの足で足を踏み入れる感覚は格別だ。訪れた人々は一様に、圧倒的なスケール感に言葉を失い、スマートフォンのレンズをステンドグラスへ向ける。映画の登場人物と同じ空間に立ち、同じ高さのアーチを見上げる贅沢がここにはある。
東京から新幹線と車を乗り継いで約1時間半。決して近くはないこの距離が、かえって日常から非日常へのグラデーションを際立たせる。物語の世界へと迷い込みたい表現者と観客を、北関東の古城は今日も静かに迎え入れている。 (出典: ロイヤル チェスター 前橋(Yahoo!ニュース))